teikokukagekidan’s diary

主にハーメルンに投稿してる小説の設定

†MULTIPLE AIGIS†SPECIALⅡ THE REQUIEM CALL 第一話 欠片

この物語は
ポケモン
ポケモン擬人化
小匙一杯のグロ要素
申し訳程度のサクラ大戦要素
を含みます。これがダメという闇の力の僕たちはとっととおうちに帰りなさい




ポケットモンスター縮めてポケモン、この世界の不思議な生き物。


空に、街の中に、海に、危険な火山にも、森林棚引く深い森の中にも、至るところに生息している。その数は今や700を越える。

人とポケモンの付き合い方はそれぞれで、トレーナーとしてポケモンと共に頂点を目指してみたり、気ままに旅を続けたり、一緒に暮らしたり、助け合ったりしていた。だがその裏ではポケモンを売買や世界征服の道具として悪用していたり、時には敵対したり、無限とも言える物語を紡ぎ出していた

またその一方ポケモンは人と付き合うことなく自然の中で単独で、もしくは群れを成して生活している。

ポケモンの中には社会に紛れたり、人と同様の生活をしたりする為に人の姿を借りる者達が居る、彼等は「擬人化ポケモン」と呼ばれ、今や珍しい事でもなく、近年数は増えている。この物語に登場する人物も皆、擬人化ポケモンなのだ。



この物語は今まで誰も踏み入れることの無かったタブーに自ら踏み込んだ異端者達の物語である。

これからあなたの眼は、あなたの身体を離れ、この異質な世界に入って行くのです...

















ミナモシティ:毒屋敷

ppp...

ppp...

ppp...
早朝五時、風鈴棚引きミナモの潮風香るてゐ国歌劇団ホウエンミナモ支部、通称「毒屋敷」、その屋敷に礼儀をわきまえないかのような電話の音がリビングから鳴り響く、近くでは五月蝿いがこの意外と広い屋敷では風鈴のように聞き心地の良い音でもある、だからと言ってそれを無視するわけにもいかない。それに気付き、この男が電話を取る。
ベノ「こちらてゐ国歌劇団…受付時間は7時から…」
寝起きのベノだ、一番早起きのしゅヴぁるは髪の手入れを終わらせて朝の鍛錬に行ってしまっている、カオティクスはおそらく寝ているか集中しているようだ。ベノは欠伸を交えながら電話先に受付時間を伝えてそのまま電話を切ろうとした、だが…ベノが切ろうとした瞬間、受話器から優しそうな声が聞こえてきた
???「ベノホーンさんですね?ご無沙汰してます...」
ベノ「いえ、こちらこそ」
瞬時にベノが敬語に切り替える、それは数少ない目上の人物に対する対応である証拠だ
ベノ「すいません、そちらは時差の影響上現在夕方の四時ですね。ご用件はなんでしょう?」
電話先を確認せずにとった事もあってベノにしては珍しく焦る。だが相手は「お構いなく」と優しく応えた、そして…ベノは相手の言葉に耳を疑った
ベノ「…申し訳ありません、もう一度言っていただけますか…?」
???「はい…、ルークスにお伝えください...帰って来て、と...」





カナズミシティ:噴水前


RTYUA「〜♪」
いっこんぞめ(表)「こーら、噴水近くでふざけたら危ないだろう」
朝早くからカナズミシティの見回りをするのはRTYUAといっこんぞめ、彼等は地組の中でも早起きな方で、いっこんぞめに至っては職業病でドラゴより早く起きている(いっこんぞめ深夜3時半~朝4時、ドラゴ朝四時半)
いっこんぞめ(表)「まったく…落ち着きが無いなぁ…」
誰も居ないからかRTYUAは珍しくテンションが高めだった、自由奔放でここ最近はずっとこんな感じなのだ、あまりにテンションが高いためかいっこんぞめも少々ため息を付いている。
RTYUA「よぉし!見回りも終わったし帰ろうか!」
目をキラキラ輝かせ、ダイナミックに空中を大回転、そのままキレイに着地してウキウキ気分で噴水を後にしようとする。
いっこんぞめ(表)「待った、まだぞめ(裏の人格のこと)の分のお祈りがまだだっての」
「ちぇーっ」とベンチに座るRTYUA、だがその時…
RTYUA「?」
何か違和感のようなものを感じた、おかしいと思い、周囲を見渡すが…誰も居ない
RTYUA「気のせいかぁ…、ん?」
その時、公園の入り口から噴水に向かう少女に目が行った、普段ならこんな事ありえないと自分でもわかっているが…何故か視線を逸らせることが出来ずに居た
RTYUA「うっ…、何…?頭が…」
その時、クラクラと頭の中に何かが疼き、蠢く。自分でも理解できない何かがそこにはあった
いっこんぞめ(裏)「RTYUA?」
RTYUA「ッヒ…!?」
声を掛けられたRTYUAの反応は異常だった、何かに怯えているようなものではなく、ただ何かに苦しんでいるようだった
RTYUA「僕…の…」
いっこんぞめ(裏)「RTYUA…!しっかり」
何かを言いかけた所でRTYUAはバタリと倒れてしまった
いっこんぞめ(表)「とにかく屋敷に運ばないと…!」
表に交代したいっこんぞめはRTYUAをおぶって公園を後にした、少女とすれ違いながら…


???「…何処に居るの…?このカナズミシティのどこに…会いたいよ…」
少女はベンチに座ると写真を片手に切なそうな表情をし、深く咳き込んだ
???「もう…時間が…」




キンセツシティ:てゐ国歌劇団キンセツ支部

比較的他の組に比べて早起きが少ないのが兎組である。この日もこの時間に起きているのはたったの三人だ、冬に早起きなこのかを除いたメンバー全員が遅起き(寝てないのもいる)であるこの組だけは朝ごはんにならないと全員が揃わない事がザラにあったりする。

アデア「おはよう、ライフ」
ふわぁと欠伸をしながらリビングに顔を出すアデア、そしてキッチンで今日の朝食を作っているライフ、そして現在今朝の鍛錬に出かけているあるまの三人だけがこの時間で起床している。
ライフ「おはよう、アデア、早いわね」
普段はデスクワークなどでもう少し後に起きてくるアデアであったが今日は朝からアデアの好物の匂いがしていた、散し寿司だ。アデアは寿司が大好物なのだ
アデア「前日ベノさんから仕事が入ってきてね。それと良い匂いがしたから…。どうしたの?朝から豪華だね」
ライフ「昨日の夕飯の残りを使ったの、まだ皆起きないと思うし…アデア、先に食べちゃって」
アデア「えっ、でも…」
珍しくライフがご飯を進めて来た。基本みんなで食べるのがてゐ国歌劇団のルールであり、ライフやこのかを始めとする料理係(他だとラグナやルークス、タマズサ、ドラゴ、ニーナ等)は皆このルールには厳しく、兎組は特に厳しい事で有名だ
ライフ「お願い!一生のお願い!」
アデア「う…うん」
ライフのお願いに疑問を持ちつつ散し寿司を口に運ぶ。初めに感じたのは「美味しい」という極普通のいつもながらの感覚。ライフの作るご飯は美味しい、美味しいけど...今日は何かが違う、アデアには何故かはっきりわかった。それを問おうとアデアがお箸を置いた瞬間、ライフが隣に座ってきた
ライフ「ねぇ…アデア、これ…」
顔を真っ赤にしたライフから小さいプレゼントボックスがアデアに渡された、手のひらサイズでピンクのリボンで包装されている。白いかわいらしい箱だった
アデア「これは?」
ライフ「部屋に帰ったら開けてみて、きっと気に入ると思うの」
不思議に思いながら持ってみる。軽い、だけどちょっと重量感がある、だが何かは分からずにいた
ライフ「中には手紙もあるの、それもちゃんと見てね」
この上ない素敵な笑顔、その笑顔にアデアは胸の奥で痛みを感じていた、胸骨の痛みとも風邪とも違う。もどかしい、こう…直接的な痛みではない。どちらかと言えば心が…軋んでいた
アデア「(何だろう…この気持ち…とてもドキドキしてる…?)」
赤面してオドオドしているアデアにライフは顔を近づけてきた、アデアの顔はもはや真っ赤では済まされない程真赤であった
アデア「ら…らいふ…」
ライフ「口の周りにたべかすついてるよ、もう」
アデアは咄嗟にライフの方を向いてしまった、そして…
ライフ「ちゅ…んっ…アデア…」
完全に頭がショートした、アデアがライフの方向を向いたことで二人は唇を重ねたのだ
アデア「ら…らららららららいふ…?」
頭が混乱した、てんしのキッスどころではない、女神から抱擁を受けたような気持ちになり、アデアは完全に冷静さを失い、ライフに誤ろうとするも呂律が回らずあたふたしていた、だが…
ライフ「ごめんね...アデア」
その瞬間、ライフはアデアに寄りかかってきた、いや…何かがおかしい
アデア「…ラ…イフ?」
おかしい、違和感が生まれた。悪寒がしているわけでもない、だがそれを身体では分かっている。だから血の気が引いているのだろう。精神的にその状況を理解するには突然すぎたし分かったところで「はいそうですか」と理解できるはずもない。これが夢だと自分に言い聞かせる、だが…これは現実だ、そう理解したとき…アデアは痛感した
アデア「…冷たい…」
ライフの異常な冷たさ。いくら台所で水作業をしていたとしても異常な冷たさだ、それに手ならまだわかる。寄りかかっている身体が冷たい。まるで氷像のように…彼女は動かなくなっていた
アデア「ライフ!!」
正気に戻り、彼女に声をかける、だが…返事は無い。アデアは頭がボーっと熱くなり、背筋が凍った。信じたくない。彼女が、ライフが生きていないなど
アデア「ライフううううーっ!!」
悲痛な叫びは木霊した、この狭い空間で


そして、物語は動き始めた…



2日後...



毒組パート:精神(こころ)の限度


毒屋敷:隊長室


カゼキリ「失礼する」
もみじ「遅いよカゼキリ、もうほとんど集まってるよ」
カゼキリ「来ないよりマシだろう、ドタキャンより遅刻の方が誠意は見えると思うが。ところで呼び出した張本人はどこに?」
カオティクス「今こっちに向かっているそうです。もう少し待っていてください」
カゼキリ「そうか。…?」
その時、部屋の違和感にカゼキリは気付いた。やけに重苦しく数も不ぞろい。オマケに散らかったデスク。だが深く考えようとした矢先ドアが勢い良く開いた
ベノ「おう、すまねぇ、待たせた」
入ってきたのはベノだった、だが誰の顔を見ることも無く大量の書類らしきものを束ねてデスクワークをしながらこちらに話を一方的にぶつける
ベノ「突然だがな、ルークスが帰国する事になった」
その言葉はとても突然で、とてもデスクワークしながら言って良いものとは到底思えない内容だった
タマズサ「ベノはんっ!そないな急に…」
ベノ「心苦しいが明日がその日だ、以上」
いつものらしくない辛辣な対応、黙々と無言で立ち上がって部屋を去ろうとしているベノの襟を掴んだ人物が居た
ベノ「っ…なんだ、しゅヴぁる」
しゅヴぁるはそのまま引きずるようにデスクにベノをたたきつけると今度は胸ぐらを掴んで思いっきりベノの顔面を殴り飛ばした!!
しゅヴぁる「ふざけるな!そんな大事な事を人の目も見ずによくものうのうと話せたな!!」
激怒するしゅヴぁる。それを他のメンバーが制止する。なんとか引き離したがしゅヴぁるの怒りは収まらない
もみじ「しゅヴぁる、ダメだよ!」
しゅヴぁる「お前はっ!仲間をなんとも思わないはずが無いだろう!!なぜそんな辛辣な一言半句で片付けられる!応えろ!!納得の行くように!!」
普段なら絶対こんな事はありえない。ベノの態度も、しゅヴぁるの反応も、
らんまる「落ち着け、しゅヴぁる」
歯軋りをしながらベノを睨みつけるとらんまるに宥められたしゅヴぁるは早足で隊長室から出て行ってしまった…
ベノ「…」
先ほど殴られた際にベノが手元から落とした書類を拾ったエクレールはため息を吐きながらベノに書類を突きつける
エクレール「いっくら血眼になっててもこれぐらいは説明してくれてもよかったんじゃないですか?」
その書類の頭に書かれていたのは…「特別任務」の四文字。そしてごたごたした規約の下に「ルークス・ロッサーラ・セインダムは現在特別任務中につき帰国を延期する」という文字だった
タマズサ「これって…」
ベノ「…俺なりに頑張ってみたけどよ、結局空周りだったぜ…確証が無いから承認されねぇんだ」
そう、この書類、全てベノがルークスの帰国を少しでも延長する為に用意した偽の書類なのだ
ベノ「…二日前だ、ロッサーラ・セインダム、つまりはルークスの実家から連絡があってな…、現当主…ルークスの親父さんが意識不明の重体になってな、原因は不明だが突如意識が無くなったそうだ」
ぷりん「それじゃあどうしてそんなことしたの?」
ベノ「…万病に効く薬を手配してたんだよ、俺もアイツ(ルークス)とは長いしここに来た理由も知ってっからよ」
ため息重ねてベノが頭を抱える。よく見ると目の下には隈(クマ)ができており、あからさまに寝不足であることが伺えた
カオティクス「ベノさん…まさか」
ベノ「あぁ、この二日間寝てねぇよ。寝れるかクソが」
やけくそ気味にベノが言い捨てた、どうやら誰とも目を合わせようとしなかった理由はこれのようだ
タマズサ「あのぅ…ベノはん?ルークスはんがここに来た理由ってなんのことなん?」
カオティクス「…そういえばまだタマズサさんたちにはお話していませんでしたね」
もみじ「エクレールまでしか知らなかったっけ…ルークスはね、跡継ぎとしての花嫁修業を口実に毒組に来たんだ…」
ぷりん「求婚者が絶えなかったみたいでね…親に敷かれるレールに嫌気がさしたからここに居るの…私もエヴァンブラッドの血を引いてるから分かるの…」
エクレール「合点が行ったよ、それでいきなり帰国して家を継げなんて言われちゃったからショックで部屋から出てこなかったんだ」
らんまる「言われてみれば一昨日から全員で食事は出来てなかった。てっきり仕事で欠席していたものと思っていたが…」
カオティクス「おかしいとは思ってましたがベノさんがほっとけと言いましたので気に留める程度にしておきましたが…」
ぷりん「…崩れちゃったね、私達の日常…」
カオティクス「いつかは来る事とはわかっていました...、ベノさんからエクレールさんまでのメンバーはルークスさんが花嫁修業の口実でてゐ国歌劇団に入隊していた事も承知の上でしたしいつかは別れが訪れる、だからと言って別れの覚悟を決めていたと言えば嘘になります...」
カゼキリ「そうだったのか、難儀だな」
エクレール「冷めてるねぇ」
カゼキリ「私様からすればロッサーラ・セインダム家のことなどどうでもいい。これは当家の者だけで決めることだ、あくまで隊長のしたことは時間稼ぎ、阻止ではない。そしてこの結果だったのだ、時の運を恨むほか無いと私様は思うが。」
ベノ「…出来うるなら原因を知りてぇ、どうしていきなり意識不明になったかをだ」
カオティクス「たしかルークスさんのお父上でしたね…あった、グラン・ロッサーラ・セインダム、ロッサーラ・セインダムでは結婚の際には必ず嫁ぐのではなく婿を取る仕来りがあるそうでグランさんは婿として迎え入れられた方のようです」
ベノ「さらに大本を探ればすげぇぞ、父親、つまりルークスの祖父とアベリアの祖父は兄弟。このこともあってロッサーラ・セインダムとエンプレイレス・バイバルは同盟の間柄に有り姉妹家としてシンオウとイッシュの二地方を代表する大富豪だ」
ぷりん「意外とすごいんだよ、私達てゐ国歌劇団に関与してる貴族や富豪って」
ベノ「ぷりんやくぃーんのエヴァン・ブラッドはカントーを発展させてるしルークスのロッサーラ・セインダムは幻の貴族で一説によれば太古の昔の英雄の血を引いてるとも言われてやがる」
タマズサ「ウチのリュウグウジ家は古来からフスベシティ最強のミニリュウ家系で武道家やよ」
カオティクス「レジーナさんは没落貴族ですがフレイ・ヴァジータ・リベレッテ家もロッサーラ・セインダムに負けない知名度を持っていましたし…ゆきのさんのハルサキ家だって4600年前ホウエンを支配していたこともあって教科書に載るくらいの有名人ですものね」
らんまる「お家自慢を話すのもいいが…問題はそれだけ高貴なロッサーラ・セインダム家の跡取りをどうするかだ」
ベノ「わりぃ、俺はこのまま足掻いてみる。どうにかなるかもだしな」
カオティクス「わかりました、その間の指揮は僕が担当します。ラグナさん不在の状況ですので」
ベノ「わりぃな、水質調査に送ったのが悪手だったか…?」
エクレール「仕事だしアローラ地方に行くトレーナーやポケモンのことを考えた結果じゃん」
もみじ「そうじゃんか、それにラグナなら向こうでも元気にして待っててくれてるよ」
ベノ「そうだな、よし…。お前等、ルークスのために力を貸してくれ」
タマズサ「ウチのほうからも動いてみるわぁ、何か手助けできるかも知れへんし」
この場でラグナとルークス、しゅヴぁるを除くベノ~らんまるまでのメンバーが色々と意見を出し合い話し合いを始めた
カゼキリ「…さて、後は”何が””どう”転ぶかだけだろう。私様達が気安く干渉しても悪手だ、戻るぞチグサメ。…チグサメ?」
しかし、チグサメの姿はどこにも無かった



〔小さな言葉、大きな思い〕



ルークス「...」
ベノたちが話し合っている一方、ルークスは自室にいた、だがそこにいた彼女は枯れ花のようにやつれていた。どう見ても食事を取っていないし寝てもいない事がわかる。ルークスの、ドレディアという種族は人間が思っている以上にデリケートな種族だ、実は人間が手入れしていてもドレディアはそれに加えて自分でも手入れをするのだ。ただしトレーナーに甘やかされすぎたドレディアは自分の手入れを怠る。そのため枯れてしまうのだ。さらにルークスは突然のことに非常に弱い、加えて今回のことはルークス本人にもドレディアという種族にも強すぎる刺激=知らせになってしまった
コンコン
ルークス「...!」
その時、ルークスの部屋のドアがノックされた、彼女は反射的に反応してすぐに髪を梳かした。ブチブチと音を立てて痛みを伴い、髪の毛が抜けて行く。だが流石の手並みですぐに髪を梳かし終わり、軽く香水を振りまきドアの向こうへ訪ねた
ルークス「どなた...?」
だが反応は無かった...しゅヴぁるやベノでは無い、そう...直感でわかった、だから即座に反応した。ドアを開けるのは怖かったがそれでもルークスは自然と鍵を外し、そっとドアを開けた
ガチャ...
ルークス「あ...」
チグサメ「あ...」
そこにいたのはドアノブに手が届かなかったチグサメだった


ルークスはチグサメを部屋に招き入れ、紅茶とお菓子で持て成した。これまた素早く手馴れた手並みでそれを終えるとルークスは口を開いた
ルークス「えっと...それでどうしたの...?」
実のところルークスはチグサメと面と向かって会話した事が無い。いやそれを言えばほとんどのメンバーがそうなのだが
チグサメ「その...」
その時、珍しい事にチグサメが口を開いた
チグサメ「ルークス...心配...」
ルークス「え...」
それは意外な一言だった、あのチグサメが意志を見せたのだ。いつもは言伝で会話するのが稀なくらいなのに
チグサメ「みんな...心配してる...」
ルークス「チグサメ...」
チグサメ「その...えっと...」
ルークス「ありがとう...」
チグサメ「っ〜!!」
ありがとうと言う声を聞くとチグサメは顔を真っ赤にして部屋から出て行ってしまった
ルークス「...少し...、楽になったかな...」
胸をなでおろし、ルークスは久しく鏡に映る自分の微笑みを見た


地組パート:絡まない糸(こころ)

アースキャッスル(地組の本拠地):しらみつの部屋

まお「ほう、公園を散歩していたらRTYUAが気を失った…と」
いっこんぞめ(表)「一体何がなんだかアタイにもわかんないよ」
シュトラ「…」
まお「どうだ、シュトラ」
シュトラ「…感じ取れるのは”悲しみ”…それ以外はとんでもないジャミングで見えない」
まお「しらみつ」
しらみつ「身体的異常はありません、ですが精神的に大きな傷…所謂トラウマを何かのショックで思い出してしまった可能性も…」
まお「ふむ…MEXさんよ。RTYUAは貴様が拾う以前の記憶が無いと言っていたな」
MEXさん「はい。介抱の後に気がついたときには記憶が無いと」
若干オロオロしながらMEXさんが話す。実はRTYUAはMEXさんが数年前に雨に打たれてた所を拾われている。その経緯があってかRTYUAは唯一MEXさんを呼び捨てできるほどこの二人は仲が良く。本当の家族のように接し、息もピッタリなのだ
まお「…もしかすればRTYUAを棄てたトレーナーのことが関連しているのか…?」
ピクッとMEXさんが耳を動かす。その右手はぎゅうっと憎しみを混め、握られていた
MEXさん「…もしその人間が生きていたら…私に介錯させてくださいね…」
まお「…好きにしろ」
人間を憎む二人の殺気にいっこんぞめとしらみつは畏怖した、その様子を見ても動じないシュトラは慣れているのだろうか…
まお「人間などがポケモンに立て付こうとはおごがましい。せめて共存の為に尽くすべきだ。もっとも外道に生きる価値など無いが…」
MEXさん「ええ…ポケモンを酷使し、ゴミのように扱う人間は殺さなくてはいけません…」
しらみつ「(これが…地組の人間に対する憎悪…)」
いっこんぞめ(表)「…しらみつ、アンタもあっち側になるよ。その内ね…」
しらみつ「…」



〔信条と自分の心と〕

ドラゴ「だから車で行こうって言ったんだ…」
ニーナ「ほらっ!もうちょっとだよ!ファイト!ドラゴ!」
ジーパン「なっさけねぇな、弱音吐くなよ」
今、ドラゴ、ニーナ、ジーパン、ぼたんの四人は買い物を済ませ、帰路に居た。もっとも男二人は荷物持ちのようなものだが
ぼたん「…」
ドラゴ「ぼたん、お前重くないのか?」
ぼたん「…やどりぎのタネで出るツタが支えてる。そのため俺自身にはそこまで重さは伝わらない…」
器用なタイプを併せ持つぼたんは無表情で説明する。一方小細工があまり得意ではないタイプを併せ持つドラゴは悔しそうに荷物を運ぶ
ニーナ「あれ?」
てゐ国歌劇団カナズミ支部の入り口に誰かが居た。その人物は南国のホウエンでは暑苦しそうなケープを羽織っている
ドラゴ「なんだぁ?誰かの知り合いか?」
だがその場の4人は首を振る。誰の顔見知りでもないようだ
ぼたん「…!ドラゴ!」
ドラゴ「任せた!」
持っていた荷物を三人に投げ捨て、ドラゴが素早く走る。その人物は今にも倒れそうにふらふらしており。案の定ふら付いて倒れた。もっともギリギリでドラゴが助け出したが
ニーナ「ドラゴっ!」
ドラゴ「大丈夫だ、気を失っただけみたいだ」
ぼたん「…人間か」
ジーパン「一抜けた」
ドラゴ「待てよ!人間だからって見捨てて良いわけないだろ!姐さん!」
ジーパン「うるせぇなぁ、人間がどうなってもあわてらにゃ関係ないだろ。依頼して金にならないぐらいなら死んで土に返ってくれたほうが役に立つ」
ニーナ「姐さん…」
ジーパン「あ゛ー!!鬱陶しい!!こん(いっこんぞめの表人格のこと)!!レジーナ!!居るんだろ!!とっとと出て来い!!」
ロビーに向かって大声でそう叫ぶとジーパンは自分の荷物だけ持って二階にある自分の部屋に戻っていった
ぼたん「…素直ではない」
ニーナ「姐さん…ホントはすっごく優しいから」
ドラゴ「ともかくいっこんぞめの部屋に運ぶぞ、よっと…」
いっこんぞめ(表)「うわ、どうしたのそれ」
ニーナ「入り口付近で倒れちゃって…ほっとく訳にも行かないし…」
ぼたん「…ともかく介抱してやれ…見たところ女性だ、俺達にもモラルの限界がある…」
ジーナ「ワカリマシタ、ききゅ箱(救急箱)とて(取って)来るデス」


〔初対面の再会〕

現在地:いっこんぞめの部屋

いっこんぞめ(表)「うし、これで大丈夫。軽い貧血っぽいし今飲ませた薬が効けばじきに目を覚ますよ」
ドラゴ「ポケモンじゃなかったとすると…まおには俺が説明するか…」
ニーナ「私も言うよ、流石にあの状況は…」
ぼたん「だな…俺達てゐ国歌劇団は人を助けるのも仕事だ…」
いっこんぞめ(表)「にしても…これはちょっとおかしいね」
ジーナ「デスネェ」
???「リ…シャ…ど…こ…」
その少女はうわ言の様に何かを呻いている。誰かを探しているようだが…
ドラゴ「参ったな…人探しか?」
ぼたん「…シュトラを呼ぶか」
ニーナ「とりあえずまおに報告…」
いっこんぞめ(表)「待った、それはこの子が気がついて落ち着いたらだ。今は混乱を呼ぶだけだよ」
ジーナ「それに…この人選って…」
ぼたん「…”人間に対する反応が普通”か…?」
ドラゴ「あっ…」
ニーナ「確かに…」

一覧表

名前 人間に対する感情
まお 最悪だが場合によっては手を貸すことも有る
MEXさん RTYUAのこともあり完全拒否、まおやてゐ劇の命令で人を助ける場合は仕方なくやっている
RTYUA 完全拒否、眼中に居るだけで拒否反応を起こす事もある
くぃーん 憎悪こそ無いが下等にして下劣な生き物として見ている
ドラゴ 普通、地組の中では一番平気
ニーナ (故郷の事を知らないので)平気ではあるが時折頭痛がする
ジーパン 土に帰って木の実の肥料になってくれたらいいという考え、あくまでも自分を歪めた根源である人間を決して許していない
ぼたん 罪有る人間には死を、罪無き人には幸福をの考えではあるが…いざという非常食として見ていることは否定していない(ノクタスの常食は人などの肉)
ジーナ 自分に敵対しなければそこまで嫌いではないが一度敵対すれば目玉を抉り出すレベルの苦痛を与えて殺す
シュトラ 心が読めるのもあり信頼していない。言葉にこそしないが今では人間は救うに価しないとして必要であれば殲滅も厭わない
いっこんぞめ 両人格共にそこまで嫌いではない。むしろ職業柄助けるものとして見ているが外道には手を貸さないことを信条としている
しらみつ 場合によっては協力するが信頼はしていない。頭では分かっているがあまり長く人とは居たくない(情が移ったり少しでも殺す気の有る自分に嫌悪感を覚える為)

ドラゴ「どうするよ…こっそり病院に送るか?」
ぼたん「…賛成だ、ここに居ても命が危うい…」
まお「ほう、何の話をしている」
いつの間にかそこにいたまおを見て五人の背筋に悪寒が走った



兎組パート:ちぎれた命(こころ)



霊安室

アデア「...嘘だ、こんなの...」
あるま「失礼する」
ライフが倒れた知らせを受け、アデアとライフ、デビローズにただいなを除く8人が一斉に駆けつけた。そこは冷たく、顔に打ち覆い(うちおおい)を被ったライフが居た…力なくベッドに横たわって…
このか「嘘や...嘘やろ?ライフちょっと寝とるだけやんな...?」
一歩一歩、眠るライフにこのかは歩みを進める、そしてそっと頬に触れ...
このか「...アホやなぁ、こんな冷とぉなって...やから...ちゃんと暖こうして寝ぇ言うとったのに...」
いつものように笑顔でそう言った...だが...
このか「霊安室なぁ...ここじゃあ寒すぎやで?そら冷とぉなるって、ちょっと暖かいもん買ってくるさかいに待ってぇな?」
アデア「このか!」
そう言って走り出したこのかに違和感を感じ、アデアは追うように走り出した
アンペルト「...何時死んでも悔いが無いように生きる言うとった、じゃがの...ライフ、本当に悔いは無かったんじゃろうか...?」
ライラ「親父...」
ゆきの「さっきね...」
その時、駆けつけてからずっと口を閉じていたゆきのが語りだした
ゆきの「見えたの、このかが泣いてたの、このかのお母様に以前お聞きしたのだけど...このかって出産時も泣かなかったらしいわ、私とアベリアも昔からこのかとよく一緒だったけど...」
アベリア「私たちが知る限り...このかは泣いた事が無いわ、生まれた時、子供の時、親に打たれた時、反対された時、いかなるときもこのかは泣いた事が無い、少なくとも人前じゃ泣かなかった、いえ、本当に泣いた事が無いんじゃないかしら...」


病院屋上

アデア「このか!」
このか「!」
そこには…あふれる涙を止められずどうすればいいか分からない顔をしたこのかが居た...顔は見せていないがアデアには分かっていた
このか「いややわ、道に迷ってしもうたんよ、それに女の子の後付けるなんでアデアもあかん...」
アデア「このか...」
このか「ひゃわっ」
アデアは何も言わず、後ろからそっとこのかを抱きしめた
このか「アデア...」
アデア「こんな時...どんな言葉を言えば分からない、だけど...それは誰かを放って置いて良いということじゃないって...そう思うと放っとけなかった、だから...その...」
このか「ありがとうな...もうちょっと...そうやな、ぎゅってしてくれへん?顔が隠れて...何も見えんと...聞こえもせぇへん...ちょっとで...え゛えがら...お願いな...?」

このかの涙は誰にも見られる事なく、声は聞こえる事なく、少し曇った昼の空に消えていった


次回予告
物語は動き出した、ルークスの決意。謎の少女の存在、そして帰らぬライフ。それぞれが崩落の音を立て、新しい物語が生まれる

次回 †MULTIPLE AIGIS†SPECIALⅡ THE REQUIEM CALL 第二話 声無き思い

思い、それは心を移す鏡